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レイル・ハマー(苦渋の夜)」

  • 2008/03/05(水) 08:07:33

「ヘブライの館」より転載

が、その翌日、イスラエルの機関員らは、
自分らがひどいミスを犯したと悟った。

違う男を射殺していたのである! 

被害者はノルウェー女性を妻に持つアハマド・ブチキというモロッコ人だった。

しかも妊娠中の妻が、射殺の現場を目撃し、
他の目撃者が犯行車のナンバーを警察に通報していた。

更にまずいことに、この時、イスラエル機関員らは第三者を介在せず、
直接にレンタカーを借りていた。

そのため、2人のイスラエル工作員が、
レンタカーをオスロ空港で返そうとしたところを、逮捕された。

彼らはダン・エルト、マリアンネ・グラドニコフという名で旅行していたが、
2人とも、イスラエル機関のために働いていたと自供した上、
モサド機関が使っていたアパートの住所も教えてしまった。

警察はそのアパートで、更に暗殺チームの2人のメンバーを逮捕した。

ノルウェー捜査当局は、世界で最も優秀と言われるスパイ機関が、
これほどの素人仕事をしていたのに驚いたという。

工作員らは、熟した果実が木から落ちるように、次々と警察の手に落ちた。

リーダーのハラリは逃げ切ったが、
アブラハム・ゲーマーも他の5人のモサド機関員も逮捕された。

このノルウェー警察の取り調べの結果、
「ミュンヘン五輪虐殺事件」以後の
数々の暗殺の犯行内容が明るみに出たのである。

更に、モサド機関員の1人が所持していたパリのアパートのキーから、
フランス諜報機関は、
イスラエル機関員らの他の幾つかの隠れ家のキーも見つけ出した。

そして様々な国でパレスチナ人が殺された未解決事件に、
イスラエルが関与した証拠がゾロゾロ出てきた。

西側諜報機関は、モサドの暗殺チームが欧州で活動していた事実も、
またモサドが見張りや補給任務などにパートタイマーを雇っていたことも知った。

オスロでの取り調べを受けた際に、最も多弁だったのはエルトだったという。
彼はモサドのスタッフではなく、
テルアビブの北部に住むデンマーク系のビジネスマンで、
彼はしばしばモサドから、各種の要請を受けていたという。

ノルウェー警察が彼を暗い隔離室に入れると、たちまち彼は全面自供に及んだという。
そして、取調官らは、彼がスパイ任務には
致命的なハンデとなる閉所恐怖症者と知って、驚きを隠せなかったらしい。

だが、モサドに幸いだったことに、
ノルウェー当局はこの厄介な事件を厳しく追及しようとはしなかった。

ノルウェー当局はイスラエルに好意的で、2年から5年半の禁固刑を言い渡したが、
実際は全員を22カ月以内に出獄させた。

フランスやイタリアの治安機関は、モサドに対し強い仲間意識を示し、
他の西欧諸国の諜報機関も、
アラブのテロと戦うイスラエルに共感を抱いていたためであろう。

しかし、このモサドの不祥事はイスラエル国会で取り上げられ、
復讐のモラルについてかんかんがくがくの議論が闘わされ、
モサドは大胆なテロリスト狩りをすることを慎むようになった。

で、人違いによって命を救われた
「赤い王子」ことアリ・ハッサン・サラメは、
5年半後の1979年1月22日、ベイルートに潜入した
イスラエル小チームが仕掛けた自動車爆弾によって、
愛車ごと宙に飛散してしまった。

だが、CIAはこの作戦に非常に不快の意を示したという。

なぜならば、「赤い王子」ことサラメは、アメリカに非常に協力的で、
PLOとアメリカ諜報機関との秘密の連絡役を務めていたからだという。

1988年4月、女性を含む8人のモサド処刑部隊がPLOの最大派閥
「ファタハ」のナンバー2の地位にあった
アブ・ジハドをチュニジアの首都チュニスで殺した。

この彼の後釜に、PLOの軍事部門責任者のアブ・イヤドが就いた。

彼は「ミュンヘン五輪虐殺事件」の首謀者の1人として
イスラエル政府から徹底的にマークされ続けていた男である。

既にこの時点で、彼を除いた犯人たち全てがモサドの
報復部隊に殺されていた。

果たして、1991年1月14日の深夜、
チュニス郊外にあるPLO幹部アブデル・ハミドの自宅を
彼のボディーガードの1人が突如襲い、機関銃を乱射。
ハミド宅にいたアブ・イヤドら3人は殺された。

翌日午前、PLOカイロ事務所は
「犯行の背後にイスラエルのモサドがいる」との声明を発表したが、
実際は、サダム・フセインの意向を汲んだ
アブ・ニダル(ローマ・ウィーン空港同時テロの張本人)の
手下が実行したものと言われている。

この事件の背後関係は複雑なようだが、いずれにせよ、
アブ・イヤドの死によって
「ミュンヘン五輪虐殺事件」の犯人たちは全員始末されたわけだ。

しかし、ノルウェーのリレハマーでの大失態劇は、
今でもイスラエル諜報界にとっては忘れられない悪夢で、
多くの人はリレハマーをヘブライ語の語呂合わせで
レイル・ハマー(苦渋の夜)」と呼んでいるという。

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